ほっこくブログ ~潟のエトランゼ~

来訪者から見た北國のすがた

ほっこく温泉記 寺の温泉にて

昔ながらの集落の中、狭い路地を行くとその温泉はある。廃寺を再利用したらしく、建屋の外観からして寺。鐘楼にはちゃんと鐘も吊ってある。細い道を挟んで隣にはフィットネス施設があり、古めかしさのなかにどこか現代的な清潔感が漂う界隈である。リニューアルされた本堂は畳敷きの休息スペースになっていて、そこで食事ができ、酒も飲める。

日によって男風呂と女風呂が入れ替わるようで本日の男湯は猿の湯という。温泉に親しまずに育った私のような人間は、濁り湯というだけで俄かに興奮。洗い場の定員は5人と、いわゆる総湯などと比べると手狭であるが、木製の浴槽や風呂桶、暖色系の照明でもって、普通の公衆浴場にはない有難味を演出している。

露天風呂もすごく良い雰囲気。しっかりデザインされていると思った。お湯に浸かりながら、夕暮れ時の青空を渡り鳥の群れが散開しながら飛んでいくのを見上げるのは最高に気分が良い。照明にも気が配られている。ランタン風の電飾に集まった虫を食べにきたイモリが板壁を這う姿すら趣がある。髪を洗ってからもう一度露天風呂に浸かりにいく。独特なお湯の匂いを嗅ぎながら夜空を仰ぎ一番星、二番星と数えるのも一興。

さてと風呂から上がりぽんぽんと体を拭いていると、脱衣場に居る私以外の二名の顔貌がやけに厳ついことに気づいてしまう。片方は刺青こそ入ってないようだがヤクザ映画にでも出てきそうな顔つきだし、僕のすぐ横では宇梶剛士を太く短くしたみたいなパンチパーマの男が全裸で扇風機の風に当たっている。両名とも堅気の人なのだろうが、これは妙に緊張感のある脱衣所になってしまったと思った。かくいう私も控えめに言って決して人相の良いほうではない。そんな三名が6畳ほどの脱衣所で黙々と支度をしているのだから、他の利用客から見ればすこし異様な光景である。

それはいいのだが、さっきからその太短い宇梶剛士の方は、一糸まとわぬ股間をあけっぴろげにして扇風機に正対するかっこうで仁王立ちしている。勢いよく回る扇風機からの風が、宇梶の股ぐらをくぐって後方にゆらゆらとカルマン渦列を発生させている。

その風下に私がいる。別にいいんだけど、風がすごい私の方に来る。宇梶が扇風機の回転数をピピっと上げて風はさらに勢いを増す。ただの風ではない。宇梶の風だ。体表を覆い守るための諸々を今さっき洗い流したばかりの丸裸の私に、風に乗った宇梶のエッセンスがビシバシ当たる。